2004年ISAF年次総会報告
2004 SCIRA Commodore : 山 本 二 郎
私は11月3日から14日にデンマークのコペンハーゲンで開かれました2004年ISAF年次総会にSCIRAを代表して出席いたしました。
出席の主目的は、スナイプが2008年オリムピックの二人乗り艇種に立候補しておりましたので、艇種決定の過程をSCIRAを代表して見届け、成功・不成功にかかわらず今後のSCIRAの進むべき方向を見定める事とスナイプの存在をISAFにアピールする為でした。SCIRAからは私の他にSCIRAヨーロッパのSecretary GeneralとデンマークのNational Secretaryにも来てもらいました。
今年のISAF年次総会は、2008年オリムピック艇種決定と会長、副会長、各委員会メンバー改選という大きな議題のため特別な総会でした。
以下に要点を報告します。皆さんのISAFに対する理解の一助となれば幸いです。
1.2008年オリムピック艇種決定とその経緯
1)2008年北京オリムピック艇種
まず結論いいますと、2008年艇種は以下のように決まりました。残念ながらスナイプは採用されませんでした。2004年から変わったのは女子一人乗りとウィンドサーフィンのみで噂どおりの結果でした。
1. Multihull O
Tornado
2.
Keelboat
3.
Keelboat M Star
4.
D/H Dinghy O 49er
5.
D/H Dinghy W 470
6.
D/H Dinghy M 470
7.
S/H Dinghy M Laser
8.
S/H Dinghy O Finn
9.
S/H Dinghy W Laser Radial
10.
Windsurfer M Neil Pryde RS-X
11.
Windsurfer W Neil Pryde RS-X
2)艇種決定までのプロセス
最終決定は最高議決機関であるCouncil Meeting(評議委員会)で決定されますが、Councilが討議する為のDraft(案)はEvent Committeeが作成します。このDraft作成段階でいろいろな方面からの働きかけがあり、最終DraftはISAF会長を含めて根回しは出来ておりCouncil Meetingでは、儀式と言ってはやや言い過ぎかも知れませんが、Draftが変更されることはまず無いようです。
実際に、上記1から8までの艇種はCouncil Meetingでは何の議論もなく決定され
ました。議論があったのは、9.10.11の女子一人乗りとウィンドサーフィンのみでした。
ほぼ最終案になるEvent Committeeの案は誰が作るかと言うと、それはEvent Committee内のWorking Partyが各方面からの意見を勘案して検討報告書作ります。
SCIRAとしてEvent Committeeに訴えた点の一つは“ISAFが抱えている問題の一つであるヨット人口の拡大の観点からは、なるべく多くのクラスをオリムピック艇種に採用すべきである。二人乗りのイベントは三つあり(男、女、オープン)それに対して三つのクラス(49er, 470, Snipe)が応募しているのであるから各種目それぞれ一つのクラスを割り当てるということを検討してもらいたい”でありました。
結局スナイプは選ばれませんでしたが、WPの報告書の中で書かれているスナイプを外す理由は“Snipeは470や49erほど普及していない、現行の49erや470と置き換える特別な優位性はない”と言うことになっています。
2.Regional Game艇種
Regional Gameの候補艇種としてスナイプを含めた艇種がCouncil Meetingで承認されました。Regional Gameというのは、Pan-Am Game、アジア大会、北米選手権、南米選手権、南ヨーロッパ選手権、北ヨーロッパ選手権といった大陸大会や地域選手権のことを言います。
そもそもスナイプがOlympic艇種に手を上げた大きな理由の一つは、昨年のPan-Am GameでOlympic艇種以外を外そうという事件があったからです。幸い昨年は南北アメリカ勢が巻き返して外されずにすみましたが今後に対して危機感を持ちました。特に(裕福でない)南米のスナイプ選手にとっては、もしPan-Amから外された場合は国からの援助が得られなくなり死活問題になると言うことです。
3.今後のSCIRAの方向
今回のOlympic艇種への応募により、SCIRAの積極性と現在のスナイプの組織・活動がどういうものかをISAFに対してアピールできたことは確かです。これにより、今後のPan-Am Game等での艇種選定に良い影響を与えると考えられます。
今後のSCIRAの方向としては、従来のようにスナイプファミリー内だけで楽しくやってゆくと言うだけではなく、スナイプの背番号を背負った強力なメンバーをISAFに送り込んでゆくこと及び各国のSailing Authorityにも人材を送り込むことにより国際セーリング界におけるスナイプのステータスをより高めてゆくという方向に行くと考えられます。勿論これにより、“Serious Sailing, Serious Fun”に象徴されるスナイプの素晴らしさは損なわれることは無いと信じます。
4.役員改選
今回の総会のもう一つの目玉は役員の改選でした。特に10年間会長の座にあった豪
腕会長Paul Hendersonの後任に誰が選ばれるかが大きな話題でした。三人の副会長が立候補しましたが投票の結果は、現会長とは対象的に穏健なスウェーデンのGoran Peterson氏が次期会長に当選しました。これによりISAFの雰囲気もかなり変わるのではないかと言う予感がします。この選挙の投票権は“出席”しているMember National Authority(MNA、日本のJSAF)と会長・副会長等のExecutive Memberが持っています。そのため代表を送れない国は会場となったデンマークの大使館員等が投票に駆り出されることもあるとのことでした。そのほか副会長や各委員会メンバーも改選されました。日本からは、大谷たかお氏がCouncilメンバー(今までは穂積八州雄氏)に戸張房子氏がEvent Committeeメンバー(今までは広瀬興郎氏)に入ったはずです。
5.ISAF
ISAFには約120カ国のMember National Authority(MNA)と約80のClassが加盟しています(この中でOlympic艇種は僅か9艇種)。組織としては、最高議決機関であるCouncil Meeting(評議員会)を初めとして約18のCommittee(委員会)が有ります。総会の議題からもわかりましたが、ISAFの最大の関心事はOlympicです。其の他では、ISAF Youth Championship, ISAF World(Olympic Classによる大会), ISAF World Game, Regional Gameです。ただし、Regional Gameに関しては開催組織の力が強くISAFの影響力は他のEventほど大きくは無いようです。
私の印象では、ISAFで力を持っているのはやはりイギリスを初めとするヨーロッパの国のようです。アメリカも一つの国としては弱くは無いのですがヨーロッパには力を持った国がたくさん存在するため、政治の世界のようなアメリカの存在感はありません。南米はセーリングの実力は高いのに会議での存在感はそれほどではありません。一方アジアの国の存在感は正直言って高くはありません。セーリングの後進国という面と言葉の問題があり自由自在にDiscussionの輪に入って行くのはかなり大変です。韓国、中国の代表も参加していましたが会議での発言はありませんでした。ただし今回シンガポールの代表が副会長に立候補し7人の副会長の一人に選ばれました。またこの総会は各国のセーリング連盟の会長がかなり参加していて社交的な場にもなっております。JSAFの幹部やその他アジアの国々の幹部もこの会に積極的に参画するようになってアジアのステータスを上げていけたらという個人的な感想を持ちました。
6.その他
ISAFの名誉会長には二人の王様が就任しており会議に出席されておりました。一人は日本でもおなじみのノールウェイのHarald王でもう一人はギリシャのConstantine王です。見たところでは目だった護衛も居ませんでした。また、デンマークの王子も会議に出席されていました。日本ではマイナーなSailingも欧米では伝統と高いステイタスを持っていることを痛感しました。
これは余談ですが、私の帰りのFlightは日本を訪問されるデンマークの女王様と同じ飛行機でいわゆるRoyal Flightでした。SASの定期便で、SASのような弱小航空会社の飛行機にはFirst Classはなく女王様もBusiness Classだったようです。
私にとっては多分最初で最後の経験と思いますが、Sailing界の頂上を見ることが出来たことと国際Sailing界におけるスナイプの位置を確認することが出来大変有意義な体験でした。
以上