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徒然なるままに〜
<第8回>コントロールロープ
私は一つのボートを造っていく時に、色々こだわりを持っている。乗りにくい艇よりも、乗りやすい艇の方が良いに決まっている。自分の艇を乗りやすくする為に、色々と工夫を重ねる。以前にもご紹介したとおり、私達ペアは2つの艇を乗り分けている。オクムラとピアソン。後者のピアソンについては、チャーター艇対策という理由で使っているので、余り乗りやすくはしていない。海外で借りるであろうチャーター艇を想定して、ピアソンの標準仕様のままで残している。オクムラの方は、国内のレースで使用することを目的としているので、少しでも乗りやすいように色々工夫を重ねているつもりである。学生の皆さんも、今年のシーズンが終わり、既に代交替を向かえ、未だ卒業を迎えない下級生は、上級生の乗っていた艇を譲り受け、練習の出来ない寒い冬の時期に、自分に合わせた整備を進めていくことでしょう。今回はコントロールロープの配置等々について。
コントロールロープを使いやすい位置に配置することは重要であると思う。デッキ上のどの位置にあれば一番使いやすいか?どの種類のロープを使用するか?どの色にするか?色々悩むところである。
まずは前の方からということで、ジブタック(ジブカニンガム)から。
ジブタックについては余り悩むことはないでしょう。私にとっては一番使用回数の少ないコントロールロープのひとつであり、奇抜な発想を用いて艇のポテンシャル向上を求めるようなところではありません。カム位置は左右のクルー乗艇位置前方の外側に置き、ハイクアウト時にクルーがコントロールできる場所にあれば良いでしょう。ジブタックは、強風時にジブセールのドラフトを前方に移動させる為に引いたり、ジブセールのラフに過度の横皺が入っている時に皺をとる為に引いたり、ウイスカーを張ったタイトなリーチングレグを帆走する時に、ジブセールを浅くしてウイスカを張ったままの上り角度をより良くする為に引きます。ジブタックを出す時は、ランニングレグでウイスカを張ってジブハリを抜いた時に、ジブセールのラフがジブタックのテンションで突っ張ってしまっている時。ジブタックのカムの位置が外側にあれば、クルーがハイクアウトしている時もトリムが可能ですし、ハイクアウトしていなくても、手が届きます。また、ジブタックのロープとジブセールタックのクリングルホールへの取付け方法ですが、私は直接セールのクリングルに結んでいます(1/2倍引き)。他の選手ではジブタックのロープをセールのクリングルに通して、フォアステー取付のチェーンプレートのピンに結んでテークルを組んでいる(1/4倍引き)にしている方もおられます。私としては、ジブタックを力一杯引くこともありませんので、1/2倍にしています。その方が出すのも出しやすいので。
カニンガム(メインタック)についても、ジブタックと同様に外側にカムをつけています。理由もジブタックと同じで、ハイクアウトをしながらのトリムが必要だからです。これもクルー乗艇位置前方つけて、クルーにトリムしてもらいます。しかしカニンガムの方は1/4倍引きにしています。パワーダウンの必要な強風のクローズホールドの時は、これでもか!というくらいに目一杯引きますので、細いながらも強く伸びない繊維のロープを使用しなくてはなりません。
マストロープは、伸びが少なく、丈夫で、細くて、柔らかいロープを使用します。マスト後縁とメインセールタック部分の距離を微調整して結びますので、セーリング中にこの距離が変わらないように上記のようなロープを使います。最近では色々な新素材が出て、ロープについても色々なカタカナの名前がついています。その名前で説明できれば良いのですが、私も良く知りません。ごめんなさい。でも私がロープを買う時も、お店で観ながら「このロープ強そう」とか「このロープ格好良い」とかで決めていますので…。ということで、マストロープにはそんなロープを使うのですが、せめて3周はマストの廻りを巻いて結びましょう。以前、どこかの講習会で学生の皆さんの艤装を見させてもらった時に、結構1周しか巻いていない艇がありました。巻数が少なすぎると、マストとセールのタック部分の距離がセーリング中に変わってしまいますので、余り良くありません。最低でも2周は巻きましょう。
ブームバングについても、クルーがハイクアウトしている時にトリム出来るように外側にカムを取付けます。テークルは1/12。多分。計算が間違っているかもしれませんが…。クルーがトリムするロープは、細いシートだと手が痛くて嫌がって、クルーをしてくれなくなるので、6φくらいの柔らかいシートを使用しています。これもクルー乗艇位置の前に配置しています。ですので、主にクルーはクローズホールドのハイクアウト時に、ジブシート、カニンガム、ブームバングの3つをコントロールすることになります。3つの配置は、一番使用頻度の高いブームバングはワンサイズ大き目のカムを使用するか、プラスティック製のアイを取付けて、他の2つと一目で区別しやすいようにしています。
フォアプラー、アフタープラーは、フォアデッキ後縁の中央部にカムを取付けています。私達は、セーリング中は常に両方にテンションを掛けて、マストのデッキレベルでの前後位置を固定しています。その位置を動かす時は、ウイスカを上げる時や降ろす時、または微〜軽風域でのクローズホールドですので、クルーがコクピット内にいる時に限定されています。そういった訳で、マストの位置も確認しながら引くことが出来るフォアデッキ後縁中央付近に設置しています。トリムするところは、フォアプラーが真中に一つ、アフタープラーが中央付近の左右に分けて二つにリードしています。
私のこだわりとして、フォアプラーは赤、アフタープラーは黄色、バングは青、のシートを使用しています。フォアプラーは、強風でウイスカを張る時に“ちゃんと引いていないとマストが折れてしまうので、危険!!!”の赤。アフタープラーは“引くのを忘れるとマストベンドが全然変わってしまうので、注意!!”の黄色。バングは常にトリムをし続けているので、“冷静にクールにトリムしろ!”の青。人間工学に基づいた理論的な配色です。さすが私。ちなみにジブタックは、余り使わないので存在を消した白。カニンガムは“ハイクアウトで気を失う前に、引いたら少しは楽になるから忘れないで〜”ということで、ケバい派手な色。ジブハリヤードのテンションシートは、フォアデッキ後縁の中央付近右側にリードしています。センターケース側面にカムを設置するやり方だと、メインシート用ラチェットブロックに、テンションのシートが絡んでしまうので、前側リードにしています。一番良いのは、前側、後ろ側の両方にリードし、チューニングの違いによるジブハリの引き具合の違いは、後ろ側で微調整し、前側のリードはいつでも同じ位置まで引けば良いようにする方式だと思います。そうすれば下マーク回航時にクルーが迷うことがなくなります。また私は、順風以上のリーチングレグを帆走する時に、ブローのインパクトをもっと敏感にスピードに換える為に、クローズの時よりも少しテンションを引くことがあります。その際には、後ろ側にテンションがリードしてあると便利です。リーチングでジブハリテンションを引く理由は、前述のように、ひとつは敏感に風の力を艇に伝えること。プレーニングボートに比べ、スナイプは艇重量が重い為に、クローズではルーズテンションのリグセッティングをしていますが、リーチングではもう少しリグが固くてもスピードに変換できるのではないかと考えているからです。もう一つの理由は、フォアテンションを上げることにより、ジブセールのカーブを浅くして、ウイスカを張ったままでの限界上り角度をあげる為です。
メインシートトラベラーは使っていません。使い方が分からないのです。艇を購入する注文の時点で外してもらいました。
ポールランチャーのシステムは、標準のものと少し違っています。普通はランチャーのシートがマストのグースネック付近に取付けたブロックを通って、デッキレベルのマスト真横くらいの位置のブロックを通って、カムの上を通過し、またブロックを通っている。つまりシートを引いたら自動的にカムに掛かるというシステムかと思います。私達の艇のシステムは、カムが一番最後にありカムの前にブロックがあり)、カムに掛ける動作をしないとカムに掛からない、という風にしています。会社のヨット部で一緒に乗る人達は、入社してからヨットを始めて、年に数回しか練習できない人もいますので、通常のシステムでは、ジャイブするのが難しいので、このようなシステムにしています。今のところ、大して問題もありません。
メインシートは一般的な二股のものを使用しています。12φくらいだったと思います。最近は結構細いシートを自作で二股にしてメインシートに使用しているチームもいますが、細いシートは手が痛いので私は嫌です。メインシートをトリムする時には、カムを使用しませんので、カムはアイを外して、回転式の台座はショックコードで真中に固定しています。そのカムは、ヒーブツを張って休む時と、おトイレの時に使うくらいです。センターケース後ろのブロックとブーム真中のブロックはラチェットを使っています。順風以上の時はダブルラチェットの方が断然に楽です。最近はある程度の負荷が掛かると自動的にラチェットが入るオートラチェットも販売されていますが、高価なので買えません。
ジブシートは普通の10φのシート。これ以上細くすると、またクルーの機嫌が悪くなってしまいます。ジブリーダーは標準のシステムを使っています。艇購入時には、バーバーホーラーなどを付けていたのですが、トラベラーを使えない奴がバーバーを使えるはずが無く、取り外しました。ジブシートとジブセールクリューの止め方は、以前はツイストシャックルで止めていたのですが、ランチャーアップの際に発生する捻じれを無くす為に、色々考えたあげく、細いシートで結ぶことにしました。ずっと細いシートで結んでいる人には解らない悩みかもしれませんが、シャックルで止めていると、ランチャーを上げたらよくジブセールが捻じれてしまうのです。考え抜いた挙げ句、シートだと捻じれない。多分。
スキッパーのフットベルトの長さ調節ロープは、クルーとスキッパーの乗艇位置の真中にカムを設置して、そこにリードしています。最近の新しいオクムラやピアソンはスキッパーの後ろの方にカムが付けられていますが、その方式では私にはちょっと耐えられない。私はフットベルトの長さをチョコチョコ変えるので、直ぐ手元にカムがないと駄目なのです。それに後ろにカムがある場合は、エクステンションを持っている手で、トリムしなくてはなりませんので、エクステンションはメインシートを持っている反対の手で行わなくてはなりません。なんか自転車に右手で左側のハンドルを持って乗る時みたいで非常に不安定です。ですので、ピアソンでもここだけは標準仕様からレイアウトを変えています。また、リーチング時に足元を固定する為に、ウインドサーフィン用のフットストラップを一つ取付けています。
コンパスの取付位置は、私の趣味ではマストホールドタイプが一番。ジブセールのテルテールを見ている同じ視野にコンパスも入ってくるから。ですが、マストホールドコンパスの場合は、マジックテープで取外しが可能な為、大きな大会の計測時に、計測係員さんによって、艇体重量に含んでくれたり、含んでくれなかったりするので、いちいち気を使って大変です。そういう訳で私はウォーターブレイクV字の頂点の角に取付けています。左右に2個設置するのは高価ですから。
結構古い艇を上級生から引き継いで、その艇を新しく見せ、なお且つ乗りやすくするには、ちょっとした工夫があります。まず、コクピットの中を隅々まで洗うことは当然ですが、一番きれいに見せるコツは、フットベルトを新品にすること。少し費用が掛かりますが、フットベルトを変えるだけで見違えるように新しい艇に見えます。おそらく。また、しょーもない手ですが、過去のSCIRA登録のステッカーを全て剥がして、今年の1枚だけを張っておく。私も今年そうすることにより、7年前に購入した艇に「新艇買ったんですか?」と5人くらいに聞かれました。してやったりです。私の艇は、購入時に薄い灰色のハルカラーで注文しましたので(デッキ・コクピットは白)、汚れや黄ばみも目立ちません。また、古い艇でもラダーのピンドル、ガジョンの金具を新しいものに交換するだけで、ハンドリングが非常にスムーズに感じられるようになります。私は2年に1度くらいの周期でこの部分を新品に交換しています。
艇を乗りやすく整備すること、キレイにすること、大事にすることは、必ず結果に結び付くと思います。私も、愛情を込めて整備しているオクムラは良い結果を導いてくれますが、余り愛情を込めていないピアソンは、余り速く走ってくれません。速く走ってくれないので「お仕置きだ!」と言って、練習後に洗ってやらない日もあります。それじゃあダメダメ。という訳で、寒い冬は色々整備しながら、夏のレースをイメージしながら空想の世界を楽しみましょう。いくら学生選手権がチャーター艇方式になり、自艇で参加できないからといって、愛艇精神を忘れないように心掛けましょう。昨年より、全日本インカレがチャーター艇で行われていると聞いています。実際にレース会場に行っていないので、本当のところは良く分かりませんが、レースから帰ってきた学生の話を聞くと、整備が大変だったり、トラブルが発生したりと色々な苦労話を伺います。運送費や新艇購入の支出を削減することは大切なことですが、艇に不満があって結果も伴わないと、後味の悪いものになってしまいます。私が意見することではないのですが、デッキレイアウト等も学連基準みないものを作って標準化すれば、より良いチャーター艇での大会が出来るのではないかな〜と思います。運営側の方々にとっては、どっちにしても時間と労力の掛かることと思いますが…。
スナイプという艇種は、多少年数が経っていても、しっかりと整備がされていれば、新しい艇と比べてもポテンシャルの差は殆どでません。チャーター艇でレースをするには、これ以上にない種目だと思います。皆がちゃんと整備をしていれば、何のトラブルも不満も発生せず、選手達の実力だけが結果に反映されると思います。学生の皆さん、この冬はちょっと整備にこだわってみて下さい。
<付録〜全日本スナイプ級ヨット選手権大会in山口県光市>
11月14日(木)〜17日(日)に、山口県光市において上記大会が開催されました。連日の微風に悩まされ、予定7レース中、4レースしか行うことが出来ませんでした。レース数の少なさを運営側の不手際と感じられた選手も中には居られたかもしれませんが、あのコンディションで皆の満足いくレースを実施することは非常に難しいと思いますし、ゼネラルリコールを連発した選手側にも責任があると思います。Z旗ルールの採用により、以前までの黒旗ルールより選手達にリコールへの危機感が無くなってしまったのかなと感じました。たった4回のレースの為に、何回スタートを繰り返したことでしょう。私も非常に疲れました。前を走る為により良いスタート位置を確保することは非常に大事なことかと思いますが、スタートラインを超えたところで待っていても意味がありません。私もよくリコールはするので、偉そうなことは言えませんが、普段の練習からスタート技術の向上を目指しましょう。
今年の全日本スナイプでは、山本・武居組(日本大学)4位、宮口・小林組(京都産業大学)6位と、学生2チームが入賞されました。茨木・梅谷組(立命館大学)も最終レースでDNFとなってしまいましたが、それまでは3位という好位置につけていました。全日本インカレ終了直後の大会で、ベストコンディションではなかったかもしれませんが、微風の続く中、粘り強い走りを見せてくれました。特に日本大学の武居君は、レース中にスキッパーの山本君に「よーし良い感じだ。右からブローが下りてくるぞ!スピードを止めずにそのまま、そのまま…」などと、ずーと大きな声で話かけて、近くで見ていて良い感じでした。二人でボートを走らせているという強い意識が感じられました。流石はインカレ常勝校のペアです。「そうか、右からブローが来るのか」と私も参考になりましたし…。学生の皆さん、全日本インカレだけを追い求めるのも一つの道ですが、インカレは学生日本一を決定する大会です。スナイプ日本一を決定するのは全日本スナイプなので、チャンスがあればドンドン挑戦するべきと思います。
今回はフレフレの風の中、変な奴がインチキ臭い走りで優勝してしまいましたので、参加された選手の皆さんはフラストレーションが溜まっていると思いますが、その鬱憤を今後の練習と来年江ノ島での全日本スナイプで晴らして頂きたいと思います。それでは皆さん、よいオフシーズンをお過ごし下さい。
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