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徒然なるままに〜

<第6回>練習

 

「チューニング講座」という題名から、またまた外れてしまいます。今回は海上での練習方法について、私の思っていることを徒然なるままに〜。

自分が大学を卒業してからの海上練習といえば、週末に琵琶湖のハーバーに行き、取り敢えず出艇して、近場の学生の練習に混ぜてもらう。私の出身校だけでなく、他大学の練習でも混ぜてもらう。学生が練習していなければ、一艇だけで動作練習で汗を流して、短時間で終了。その繰り返しです。学生の練習に参加させて頂く場合、混ぜてもらっといて失礼なんですが、「こんな練習じゃ時間の無駄じゃん」と思って、途中で抜けて、自分1艇だけで練習してしまうこともあります。私の勝手な我が侭で学生にも気を使わせてしまいます。ごめんなさい。でも、なぜ私が「無駄」と思うのか。それは、その練習の目的が見えない時があるから。

最近では、変則的なマークラウンディング等、変わった練習方法も紹介されております。色んな練習方法に取り組むことは良いことだと思います。しかし、基本的な練習で、言い換えれば昔ながらのベーシックな練習方法で、技術的な基盤やスピードを身に付けなければ、奇抜な練習に取り組んでも効果が半減してしまうと思うのです。基本的な練習にどれだけ深い意味を持たせ、自分自身やチーム全体の技術レベル向上に繋げられるか。これが速い個人と強いチームを作る為のポイントになってきます。多分。大学の体育会のヨット部の場合は、年間の練習時間は社会人や高校生などに比べて多くの時間を割くことが出来ます。しかし、学生レースでの結果を目指すのであれば、個人なら4年間、チームとしては1年間という限られた期間内で技術を向上させなければなりません。キャプテンやチームリーダーの人は「今日一日、どんな練習をしよう?」「今年一年間、どういうスケジュールで練習していこう?」と悩みぬいていると思います。こんな練習をしよう!と考えていても、セーリング競技の場合は風が吹かなかったら(吹き過ぎたら)練習できない。私も学生時代は困りました。

基本的な練習とは、クローズのスピード練習、フリー帆走のスピード練習、タック・ジャイブの動作練習、短いコースでのマークラウンディング練習、スタート練習、コース練習、大まかに言うとこれくらいですかね。多分。

 

クローズのスピード練習

複数の艇にて、高さを合わせて並んでクローズホールドで走り合い、スピードと角度を比べながら、自艇のクローズホールドのポテンシャルを高めることを目的とします。艇数は所属されるチームの状況によって変わってくると思いますが、2〜4艇くらいが丁度良いかと思います。多分。

まず第一に、目的は“クローズホールドを速く走れるようになること”であり、“クローズホールドが速いことを見せつけること”ではありません。学生の練習に入って、「意味ないんじゃないかな〜」と感じることがあります。複数艇でラインを合わせて走り始め、速いペアは2〜3分後には1〜2艇身バウを出して風下艇を被せ殺したり、風上艇を上り殺したりするでしょう。その速いペアが相手艇を殺しっぱなしで走り続ける場面を良く見掛けます。自艇を並走する相手艇を走れない状態まで殺しきることは、すごい!速い!貴方は偉い!と思うのですが、その状態のままで走り続けることには意味がないと思うのです。自分が速いことが分かったら、すぐにもう一度ラインを合わせ直して、本当に速いのか試す。何度も試して確認することにより、速さの質が分かってきます。スピードがあって速いのか、角度が良いから速いのか、波を乗り越える時のハンドリングが良いから速いのか、ブローに入った時のクルーのバランスが良いから速いのか。速いことが分かったら、その速さを何度も合わせ直して分析してみる。遅いペアも何度も合わせてもらえるから、ジブリーダー位置を変えてみたり、乗艇位置を変えてみたり、波に当たる時のハンドリングを工夫してみたり、色々試すことが出来る。そうやってチーム全体が速くなっていく。速い艇が遠くで走っていても比較が出来ないし、改善できない。速い、遅いがハッキリしたら、すぐにラインを合わせ直す。各ペアが意識していれば、リーダー艇が掛け声を掛けなくても変にラインが崩れることなく、練習が継続できます。

ラインの並び方によっても、目的とする効果や出来上がるチームのスタイルが変わってきます。風向に対してイーブンな高さでラインを構成して練習する場合(距離にもよりますが、風下艇がジブセールのウインドもしくはフォアステーの前から見えるような位置取り)、どちらかというと角度重視の走らせ方になり、チーム全体がツメツメセーリングが特色となるような上達をしていきます。多分。ラインを多少風上有利で構成する場合(距離にもよりますが、風下艇がジブセールの後ろから見えるような位置取り)は、スピードを重視するような走らせ方になりますし、チーム全体もそういうカラーになっていきます。湖などの風向の変化が比較的大きいところでは、多少風上有利にラインを構成しないと、すぐに風下艇に殺されてしまって、練習が継続しません。風向の変化が激しい時は、艇の間隔を少し広めに取り、少し風上有利に構成することにより、練習が途切れにくく効率的になると思います。

各艇の間隔をどれくらい開けるかで、求めるものが変わってきます。自艇のセッティング、セールカーブ等から来る絶対的なスピードが速いかどうかを確かめたい時には少し風下艇、風上艇と距離を空けます。多少の風向の変化や波のハンドリング等に左右されないような状況で、いまの艇のセッティングが正しいかどうかを確認します。逆に艇間隔を狭くした場合、セッティングの良否等も確認できますが、それと同時に自分のハンドリングが正しいどうかを確認することができます。接近していれば、一つの波の対応、一つの風のシフトや強弱への対応が悪ければ、すぐに上突破されたり、ツメ殺されたりします。ハンドリングの上達を図ると共に、スタート混戦時の練習にもなります。

上記のように、求める効果によってラインの並び方を変えていきますが、大切なのは、なぜ速いのか、遅いのか、を判断すること。まず第一にコンパスは必ず見ておかなくてはなりません。隣の艇に競り勝った理由が、風向の変化によるものであれば、コンパスを見ていれば判断がある程度できます。風下に10°シフトして風上艇をツメ殺したのに、「俺のフネは角度が良い!」と勘違いしては困ります。風向のシフトをコンパスで確認すること、海面を見て、他艇と違うブローを走っていないかどうか確認すること、これにより同条件で帆走しているかどうかを確認します。

次に、速い遅いの優劣がつけば、その優劣のつき方を観察します。例えば風下艇に走り負けた場合、オーバーラップした状態でツメ殺されたのか、角度は一緒くらいだがバウを出されていったのか、バウを出された上で真ん前まで来られたのか。それによって角度が足りないのか、スピードが足りないのか、両方とも足りないのか、スピードは勝っているが角度で負けてるのか、もしくはその逆か。また場面場面によっても比べてみます。大きな波を超える際に自艇が止まっていないか、シフトが入った時に遅れていないか、ブローに入った瞬間に横流れして高さが縮まっていないか。ただ勝った負けたではなく、どこでどう負けているのかを認識することが、次への対応に役立ちます。※その“次への対応”を一番教えて欲しいと思われるでしょうが、取り敢えず自分で考えてください。ごめんなさい。

 

フリー帆走のスピード練習

リーチングレグ、ランニングレグの帆走は、走る角度が文字どおり“フリー”な為、その練習方法に困ることも多いと思います。レスキューボートが次のマークを設定してやり、そのマークを目標として走り合い、マークを回航する前、もしくはその直後に新しいマークを更に設定してやる、というのが理想的な練習方法かと思います。マーク間の距離は目標とするレースと同じくらいの長さで設定してやるのが良いでしょう。後続艇は先行艇を抜くこと、先行艇はトップで次のマークを回航することを目標とし、実際にレースしている時と同じイメージで練習する。この練習により、スピードだけでなく、相手艇との駆け引きやコース取りも練習することが出来ます。目標設定(マーク等)なしに闇雲に練習していると、リーチングの時はただ上り合うだけ、ランニングの時は単なる休憩時間に陥ってしまいます。レスキュー艇が自由に活用できるチームでしたら、この方法をオススメします。レスキュー艇が使用できず、マークが設定できないチームは、適当な浮標を利用するとか、コンパス角度を決めるとかの工夫をしてみましょう。コンパス角度を決める方法は、“フリー”という意味から外れてしまいそうなので、私は個人的に好きじゃないですが…。

リーチングの練習で、頻繁にジャイブを入れる学生チームを見かけることが有ります。ジャイブ練習なのかスピードの練習なのか分からない、非常に中途半端な周期で「ジャイブ〜」という指示がリーダー艇から掛けられる。スピードを求めるならある程度長い距離を走らないと優劣が分かりません。私が学生4回生の時は、列の一番後ろに並んで、全艇抜くまでジャイブ入れませんでした。シーズンの後半は皆が速くなってきて、全部抜く前に岸(琵琶湖だから廻り360°全部岸)に着いちゃうので辛かったですが…(と言うか、逆に抜かれる方が多くなったので)。

クローズの帆走練習ではシバーばかりしていなければならないような強風の日は、きっぱりクローズや他の練習を諦めて、ウィスカーを張らないリーチングの練習をするのも一つの時間の使い方だと思います。クローズでいくらハイクアウトしても艇が前に進まない辛い日も、リーチングでスピード感を堪能できれば、楽しい一日に変わります。理性の殻を解き放ち、いつもは恐れる強烈なブローにも大声でシャウトしながら立ち向かいましょう。新しい自分が発見できるかもしれません。肉体的な限界を超えたぐらいで、マストが折れる前にスパッと練習を切り上げて、座学の時間等に当てれば、クローズでシバーだけして、セールをボロボロにするより、また、単に風が落ちるのを待って時間を浪費するより、充実した一日となります。※但し、リーチングでもシバーしなくてはならなくなったら練習は止めましょう。と言うか、その時点で既に帰ってこれないかもしれませんね。お気を付けて。

 

タック・ジャイブ練習

タックやジャイブの基本動作の練習は、まず最初は回数をこなすのが一番だと思います。フットベルトに足を掛けたつもりでも、その足に力が入らずに海に落ちてしまうくらいまで、肉体の限界に挑戦してみましょう。スキッパーやクルーの初心者の間は、レスキュー艇にビデオで撮影してもらって、夜にでも見直しながら改善していくのが一番効率的かと思います。足の置き位置、シートの持ち方、体の向き、タイミング等、ビデオで上級生と比べながら確認することが短期間での技術の習得を可能とします。私は学生の時、レスキュー艇が撮影してくれたビデオをオフの間に下宿に持って返って、自分のところだけダビングして観てました。今観ると若くて笑ってしまいます。練習の為に係らず、記念になるので是非どうぞ。

初心者から一歩抜け出て、ある程度の動作が出来るようになってきたら、他の艇とスピードや高さのロス具合を比べてみましょう。複数艇でスピード練習をする際に合わせるような感じでラインをつくり、リーダー艇からの合図で同時にタックやジャイブを繰り返す。もしくは2艇でマッチレースのような感じで抑え合う。やり方は色々あると思いますが、慣れてくると単調になり易いのがタック・ジャイブの動作練習ですので、単調にならないように工夫してみましょう。

 

マークラウンディング練習

上マーク回航、サイドマーク回航、下マーク回航の練習の為、短い間隔でマークを打ち、そのコースを繰り返し回航することで、マーク回航動作の上達をはかります。スキッパーが初心者の内はウィスカを上げずに練習してみたり、クルーが初心者の内はマークを設定せずに練習することも必要かもしれません。

理想的なのは、この練習により、スタート以外の全ての動作を練習すること。タック、ジャイブ、スターボードタックアプローチの上マーク回航、ポートタックアプローチの上マーク回航、上マーク回航後即ジャイブ、サイドマーク回航、スターボードタックアプローチの下マーク回航、ポートタックアプローチの下マーク回航、下マーク回航後即タック。大きく分けるとこれぐらい。更にレースで機械的に必ずしなければならない動作、例えばヒールコントロールもそうですし、タック後にコンパス角度を見ることやタック前にタック後の進路を確認することもそうです。バングやカニンガム、アウトホールの調整等、必ずしなければならないことを無意識に出来るように反復練習します。出来ればタックやジャイブを入れる回数を決めて練習する方が、手を抜いて一本コースで走ることも無くなるし、動作トータルの善し悪しが比較できるので良いかと思います。

 

スタート練習・コース練習

長くなるから書きません。ごめんなさい。

このように基本的な練習方法を、どこまで深く掘り下げて効果を考え、どこまで目的意識を持って取り組めるか?ということが技術の上達に左右されると思います。学生の強豪チームとそれ以外のチームの練習を比べてみて、強豪チームの練習時間が圧倒的に長いとは思えませんし、離れて見る分には特別変わった練習をしているようにも見えません。やはり質の問題なのかな〜と思います。同じように考え抜いて練習していても正しいことを指導・指摘してくれるコーチや上級生の存在有無も関係してくるのでしょう。

練習の順番としては、「まず動作練習」というチームも多いかと思いますが、まっすぐ走ることも動作の一つ。ブローに煽られてヒールの安定しないスキッパーでは、クルーの人もタック練習がやり辛いでしょう。まずはまっすぐ走れること、次に動作がキチンと出来ること、そして最後にはスピードも動作も実戦で使えるものにすることを意識して、練習の為の練習ばかりにならない様にすること。ヨットレースに必要な部分部分を部分ごとに鍛え、コース練習や地方レースで全体を確認する、というのが良いのかなと思います。そんなことをしながら、それでも練習に飽きがきたり、マンネリ化したら、何か変則的な練習を取り入れたら良いかなと思います。

既に学連の皆さんがインカレ予選の近づいている今頃に、こんな文章を載せても怒られるかもしれませんが、何かの足しになれば幸いです。


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