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徒然なるままに〜

<第15回>スプレッダーは、どうする?

 

スナイプのチューニングにおいて、一番むずかしくて、一番ややこしくて、一番ほっとかれ易くて、そして一番劇的にボートスピードに影響を与えるもの。それがスプレッダーです。私も未だに理解しきれない、非常に難しいスプレッダーの調整。今まで敬遠してきたこの問題に取り組んでみましょう。

スプレッダーの調整は主に二つ。長さとディフレクション(開き角度)です。この二つについて、自分達のペア体重やセールシェイプにベストマッチしたセッティングが出来れば、あなたのボートスピードは格段に向上するでしょう。ですが、『ボートスピードが遅い。何かチューニングを変えよう!』と考えた時、スプレッダーの長さやディフレクションを変えるという行動をあなたは取るでしょうか。サイドステーの前後位置やシュラウドテンション、レーキ値などを変えることはドンドン実行するでしょう。ですが、スプレッダーを変えるという行動は余りしないのではないでしょうか。理由は簡単。面倒臭いから。理屈がよく分からないから。それだけの理由で一番後回しにされてしまうスプレッダー。私も面倒臭くて、よく分かりません。

 

スプレッダーの長さ

スプレッダーの長さを測る時、まず一番に問題となるのは『どこからどこまでを測るのか』ということです。この測り方は選手によってマチマチだと思います。スプレッダー先端のサイドステーが一方の端になるのは皆一緒かと思うのですが、じゃあ付根は何処にするの?と考え込む人も多いかと思います。ブラケットに取付けているピンの位置か?マストの側面か?側面でもどの位置か?後面の中心か?等々、色々測るポイントはあると思います。一般的にはマストの側面真横くらいで測る人が多いんじゃないですかね。この測るポイントを決めるということは「どうでも良いじゃん」と思う人も多いと思いますが、ここをキチンと定めないといけません。他艇や自分の過去のデータと比較する為に、しっかりとした目安を持っていないと、練習したことが無駄になってしまいます。

私の場合は、ブラケットの取付ピンの中心と決めています。ここの位置が、自艇の過去のデータを照合する際に、一番きっちり比較出来ると考えているからです。マストの付根付近や後面中心だとディフレクションの数値が変わると、長さの測定値も変わってくるから。(本当の理由は、ノースセールUSAサイトのチューニングガイドに掲載されていた97年ワールドチャンピオンの測り方が書いてあって、それを真似しただけ)

ですが、この測定方法も完全ではありません。マストブラケットの形状や取付ピンの位置は、マストメーカによって異なるので、違うメーカのマストとは完全な比較が出来ません。あくまで自艇の過去データとだけ比較することになります。
まあ取り敢えず、皆さんは自分なりに納得できる測り方で、しっかりと測って下さい。

自艇の過去のデータだけでなく、他メーカのマストやボートビルダーと比較する時は、単にスプレッダーの長さだけを見るのではなく、他の条件も十分に確認して下さい。ブラケットの上下位置やタングの位置が違えば、同じスプレッダーの長さでもマストベンドに与える影響は違ってきますし、ボート側のサイドステーチェーンプレートの左右距離もビルダーによって違うので、その辺の相違点を把握した上で、スプレッダーの長さを比較しなくてはなりません。

体重の重いペアは長く、軽いペアは短く、というのが一般的なスプレッダーの長さについての基本です。じゃあそれはどうやって決めるの?っていうのは、セールメーカー各社さんのチューニングガイドに書いてあるので、それを参考にしてみて下さい。長い方がサイドベンドし難くてパワフル、短い方がサイドベンドし易くなって、早目に風を逃してくれるようになります。私自身は、クローズを帆走している時の風下側シュラウドの弛むポイントを気にしながら、ハンドリングで感じるパワーと照らし合わせて、スプレッダーの長さを決めています。どの風速で下側シュラウドが弛むのかを注視して、弛むポイントで「まだパワーが欲しいな」と感じれば、長さを伸ばしたりします。結婚してからプクプク太ってきたので、どんどんスプレッダーが長くなってきました。現時点で、世界的に見ても結構長い方です。このままのペースで体重が増加したら、市販のスプレッダーでは対応できなくなってしまうかも…。

 

スプレッダーの開き角度(ディフレクション)

ディフレクションは、スプレッダーを一番スウィングバックさせた状態で、スプレッダー先端のサイドステー取付位置左右距離を測定し、その開き具合(一番閉じた状態)を管理します。スナイプの場合、帆走時のスプレッダーの開き角度は、バング等を引いてマストベンドを発生させるまでは、閉じきっていないところでバランスを取って決まります。しかし、バング等でマストベンドが増してくると、それに合わせて角度が閉じていきます。言い換えると、スプレッダーが閉じることによって、マストベンド量が増していきます。このマストベンドの増加をどこで止めるか、というのがディフレクションの管理です。陸上でセールを上げて、バングを引いたり出したりして観察してみましょう。マストベンド量の増減とスプレッダーの動き方との関係が良く分かるはずです。

スナイプのメインセールは、ある程度のマストベンドを見越してデザインされていますが、そのデザインの想定を超えるマストベンドが発生すると、過度のスピードリンクル(マストブラケット付近からクリューに向かって入る皺)が出て来て、揚力を生み出すには非効率的なシェイプになってしまいます。こういった現象が発生する場合は、ディフレクションの数値を高くする(開き角度を広くする)ことによって、改善することが出来ます。バングシーティングによるマストベンドMAXを決めるものと考えて下さい。

スプレッダーの長さは、ペア体重に合わせて調整しますが、ディフレクションは使用するメインセールの深さによって調整する、と私は考えています。深めのメインセールの場合は、ディフレクションの数値を小さく、浅めの場合は、大きく、という風にすれば良いと思います。

スプレッダーについて端的に纏めると、横方向のベンド量を調整する為に長さを調整する、縦方向のベンド量を調整する為にディフレクションを調整する、という風になると思います。

パワーコントロールの幅を、このスプレッダーのセッティングで決める。フォアとサイドのテンションバランスをシュラウドの前後位置で調整する。ブローに入ったインパクトをどう受け止めるかをシュラウドレーキとレーキ値の差(テンションの強弱)で調整する。ヘルムの方向をレーキ値で調整する。という風に私は考えています。ですので、最初のスプレッダーのセッティングが適正でないと、不得意な風域が発生することになってしまいます。全風域にオールラウンドに対応する為には、しっかりとスプレッダーを合わせないといけないと思うのです。

2003年スナイプワールドでの成績上位選手は、大多数がサイドワインダーのスタンダードマストを使用していました。この固めのマストで短めのスプレッダー、深いセール、っていうのが流行りっぽかったですね。

私達ペアは、海外の選手に比べて体重も軽い(と思われる)ので、より柔らかいプロクターミラクルのマストで、長めのスプレッダー、深めのセール、っていう取り合わせです。私は元々サイドワインダーを使っていて、その上で『ミラクルの方が良い』と感じたので、別に流行に便乗するつもりはありません。自分達の感覚を大事にしたいので…。

皆さんに一番注意して頂きたいのは、卓上の理論だけにならないこと。スプレッダーに限らず、チューニングというのは、自艇の過去や他艇のデータと比較して、数値を記録し、改善の余地を探っていく作業です。ですが一番大事なのは、その改善作業の結果をしっかりと海上で確認し、感覚で受け止めて、言語と記憶で残すことです。チューニングを変えたことによって、何がどう変わったのかをしっかりと見極める努力をして下さい。セールシェイプがどう変わったのか、パフに入った時のインパクトがどう変わったのか、波にぶつかった時の感触がどう変わったのか。良くなったor悪くなった、だけでなく、具体的な事象について感じ取れるようになることが、ボートのポテンシャルを向上させる為に一番必要な能力だと思います。

 

付録〜冬のヨットのすすめ

冬がやってきました。寒い寒い冬です。こんな時期、スナイプ乗りの皆さんはオフに入り、なかなかスナイプに乗りに海に行くなんて冒険は犯さないでしょう。私も最近、そんな冒険は犯しません。ですが、この冬場こそ、ライバルに差を付け、目標に少しでも近づき、自分自身のポテンシャルを向上させるべく行動を起こさなければなりません。ジムに通って身体を鍛える、ルールやタクティクスの知識を深める、いろいろ行動はありますが、やっぱり海に出るのが一番効果的です。なにもヨットはスナイプだけではありませんので…。

都市圏在住の方であれば、大きなヨットハーバーに行けばキールボートで冬場もレースや海上トレーニングに励んでいるチームが結構あります。大きなクルーザーであれば、デッキと水面の距離が離れているので、そんなに濡れません。バウマン以外は。艇種やポジションにもよりますが、タックやジャイブ、マーク回航での動作は激しいので、艇の上はどっちかっつうと暑いです。勝利に対して真剣に活動しているチームであれば、親切丁寧に、ちょっとだけ厳しく(あるいはスゴク厳しく)ヨットについて教えてくれる方が必ずいます。しかも、そういったチームの殆どはメンバー不足で困っているはずです。セールトリムなど勉強になることは沢山ありますし、艇の上で体を動かせるだけで十分にトレーニングになります。KAZI誌のクルー募集のページで調べて連絡してみても良いし、チームでホームページを開いて、メンバーを募集しているところも結構あります。『春の合宿が始まるまでの期間限定なんですが、参加させてもらえませんか?』ってな感じで、門を叩いてみてはどうでしょうか。温かく迎えてくれるはずです。多分。おそらく。

レーザーなんかは冬でもミッドウィンターのレースを結構開催しています。冬に練習は寒いけど、レースだったら燃え上がって暑いかもしれません。大学生ならヨット部から開放されるこの時期は、艇種に縛られること無く、いろんなレースに参加できます。どんどん経験を積んでみては如何でしょうか。

いろんなヨットを経験することは、大きな蓄積となります。それに、スナイプしか乗れないのに『ヨットやってます』なんて言えないじゃないですか。いろんな艇種を経験し、そこで出会う人達にスナイプの魅力も語る。そこでスナイプに乗ったことのないヨット乗り達が『スナイプに乗りたいな』と思い、スナイプ人口も増える。スナイプ協会にとっても良いことづくし。

私が高校生の時は『ヨットに乗って初日の出を見よう!』なんて皆で企画をして、元旦の早朝から雪の積ったオーニングを外して、凍ったロープを水で溶かしながら艤装して、スロープまでの距離を雪かきしながら艇を運び、薄暗い中を出艇していきました。今思うと馬鹿ですね。

周囲の皆が、スキーやスノーボードを車に積んで、雪山に向かって行く。その反対車線を、オイルスキンとセーリンググローブをバックに詰めて、海に向かって走っていきましょう。『僕は頭が悪いんだ』という優越感に浸ることができます。

寒い冬だからこそ、ヨットに乗ることをススメます。寒い冬だからこそ、人の温もりを感じることができます。“北の国から”を5夜連続で観ながら、そんなことを思います。

でも寒い地方の方は、安全面だけは気を付けて下さい。私は、余り寒い地方ではないのですが、安全面に気を付けて、この冬はヨットに乗らないでしょう。でも乗らなきゃいけない。でも乗りたくない。

それでは皆さん、よいお年を。

以上