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徒然なるままに〜

<第14回>サイドステーは、何処につける?

 

この講座のタイトルを読返してみて、如何にチューニングのことを何も述べていないか、ということに気付きました。という訳で、初心に帰って、今回はサイドステー(シュラウド)の取付け位置について。

スナイプ級のサイドステーの取付け位置は、470級のようにルールである一箇所に固定されているものではなく、ルールの許す範囲内で選択できるようになっています。この『選択できる』というのが、このクラスの難しいところであり、面白いところでもあります。

しかしながら、スナイプ級もしくはセーリング競技を始めたばかりの選手にとって、サイドステーの取付位置を多少変えても、その変化が艇のポテンシャルにどのような影響を及ぼしたかは、なかなか把握できないでしょう。このサイドステーの前後位置を変えたら“何がどうなる”ということを理解していないと、ベストポイントを探るその作業は、非効率的な、非常に行き当たりばったりのものになってしまいます。まずは理屈を知っておかなければ、セッティングを変えた際の、セーリングの変化を理解することは困難です。まずは、理屈を理解することから始めましょう。

当然のことなのですが、スナイプを艤装するとき、マストを立てて、サイドステーをつけて、ジブセールを上げて、ジブハリテンションを引いてくると、サイドステーにテンションが入ります。ジブハリテンションを更に引くと、サイドテンションも更に上がります。

サイドステーにはスプレッダーが取付けられています。サイドステーは、テンションが上がれば上がる程、タング(サイドステーのマスト側取付位置)からチェーンプレートまで、直線になろうと力が働きます。この力が、スプレッダーを押し出し、マストベンドを生み出します。

一般的に、スナイプのスプレッダーは角度が稼動式です。セーリング時のスプレッダーの角度は、閉じ切るまでは、フォアステーやサイドステーのテンション・スプレッダーの長さや角度・マストの強度・メインシートやバングのテンション・フォアやアフタープラーの引き具合にバランスされたところで決まります。

このスプレッダーの開き角度が狭ければ、より前方向にマストを押し出してベンドを増やしているということです。反対に、開き角度が広ければ、横方向にマストを押して、サイドベンドを抑える形で力が加わっているということです。

 

また、マストは2本のサイドステーと1本のフォアステーで支えられています。この3本のステーに掛かるテンションがバランスを取ってマストの位置が決まっています。2本のサイドステーが、より後ろ方向からマストにテンションを加えていたら、その2つの合力のベクトルは後ろ方向に強くなるので、それにバランスを取る為に、フォアステーのテンションが高くなります。逆にサイドステーが、より前側に取付けられていたら、その後ろ方向への合力のベクトルは小さくなり、フォアステーテンションは弱くなります。

以上のことにより、その他の条件を同じとした場合、

サイドステーを後ろに取付けると

@スプレッダーが閉じた角度でバランスする

Aマストのプリベンドが増える

Bフォアテンションが高くなる

Cジブセールのサギング量が減る

Dサイドベンドし易くなる

逆に、サイドステーを前方に付けると

@スプレッダーが開いた角度でバランスする

Aマストのプリベンドが減る

Bフォアテンションが低くなる

Cジブセールのサギング量が増える

Dサイドベンドし難くなる

という風に考えることが出来ます。

ですので、マストのプリベンド量を変えたい時、フォアテンションの強さやジブセールのサギング量を変えたい時に、このサイドステーの前後取付け位置を変えるという判断が発生してきます。

サイドベンド量を変えたい時は、サイドステーの前後位置ではなく、スプレッダーの長さを変更することで対応するのが一般的でしょう。

またサイドステーの取付位置は、ランニング帆走時のメインセール展開角度を制限します。簡単に言うと、メインセールはブームがサイドステーに当たるところまでしか出せません。ランニング帆走時には、メインセールを艇の進行方向に対して垂直に展開すると、一番多くの風を受けることが出来るのですが、実際には垂直に展開するまでに、ブームがサイドステーに当たり、それ以上は展開不可能になります。

一部地域の海外選手では、このランニングでの有効なメインセールの展開を実現する為に、サイドステーはチェーンプレートの一番前に取りつけるのが、ある種の常識的なものになっています。サイドステーは一番前に固定して、ピンのアップダウンだけで、セッティングを構築していくという考え方です。

だからと言って、海外の選手が全員一番前を使っている訳ではないですけどね。

サイドステーをチェーンプレートの一番前や一番後ろに付けるときは、力の掛かる部分が偏りますので、チェーンプレートの取付けボルトが強度的に十分耐えられるかどうかを確認しておかなくてはなりません。強風の帆走時に、サイドステーが飛んでしまうと、致命的な事故に繋がるかもしれません。定期的にボルトナットを交換する等の注意が必要です。

上記のようなことを理解した上で、セッティングを変えてみて、海上でどう変化するのか観察してみましょう。サイドステーの前後位置を変えただけでは、シュラウドレーキの値も変っているので、気を付けて下さい。フォアステーテンションを上げたいと思って、サイドステーを後ろにしても、一般的にサイドステー取付位置だけを後ろにするとシュラウドレーキの値は高くなるので、レーキ値を同じところに設定すると、フォアステーだけでなく、リグ全体のテンションが下がってしまいます。

スナイプ級において、チューニングの『選択できる』要素は、サイドステーの前後取付け位置だけではありません。サイドステーのピンのアップダウン、スプレッダーの長さとディフレクション、マストステップ前後位置等々。レース中以外には変更できる、これらの部分の選択によって、色々な角度から検証してみて、自分達ペアに一番会うセッティングを発見できるよう頑張って下さい。

 

【付録〜全日本インカレ2003 in西宮】

10月31日〜11月3日、新西宮ヨットハーバーにて全日本インカレ団体戦が開催されました。今年から、私もあるチームのコーチを務めている為、金曜日から会社を休み、4日間ともレースを観戦させて頂きました。当初、スナイプ級についての予想としては、2艇が圧倒的な実力を持つ福岡大学、3艇全部が安定したスコアを出せる日本大学、この2チームが優勝争いの中心であり、西宮というアウェーの不慣れな環境、チャーター艇方式という不安要素、義務づけられた優勝へのプレッシャーによる崩れ、これらを活かして他のチームがどうやって食入っていけるか?というのが、8年ぶりにインカレというものを観戦する、スナイプおじさんの注目ポイントでした。

4日間とも「こんなので青春終らせちゃうの〜」と、可哀相なくらい微風ばかりのレースでしたが、その微風であるが為に、初日は福岡大学が9位、日本大学が7位と、超混戦模様。しかしながら、両校ともここから踏ん張り、3日目終了時点までに福岡大学が1位、日本大学が2位と逆転。最終日は、総合優勝の結果も睨みながらのレースとなり、そのままの順位で大会を終えました。福岡大学は、スナイプは勝っても総合で負け、日本大学は総合では勝ってもスナイプでは負け。観ている側からすれば、風には不満が残りますが(選手はもっと不満だと思いますが…)、見応え十分なレースだったと思います。

スナイプで優勝された福岡大学については、春頃から「2艇は文句無しに速いので、問題は3番艇。3番艇の出来次第です。」といった話を聞いていました。その注目の的、3番艇ヘルムスマンの古賀選手。今年の全日本スナイプで出会った際には「ここで何かを掴みたいっす!何か教えて下さい!」と詰め寄ってきました。何も為になることは教えられなかったのですが、そのやる気満々の姿勢が脳裏に残っていたこともあり、わたし個人としても注目してしまいました。レース前半は失格もあり、「出来次第」の悪い出来の方だったのですが、レース後半は生まれ変わったように走り出しました。まさしく、古賀選手の「出来」で、初日9位から一気にクラス優勝まで逆転してしまいました。若いって良いですね。総合優勝が使命である福岡大学にとっては、クラス優勝の嬉しさよりも、総合2位の悔しさの方が強かったことでしょう。でもその悔しさにより、更に来年は強いチームを目指すでしょうし、そこに勝とうとする大学はより高いハードルを目指さなくてはなりません。レベルが上がれば上がる程、レースを観ていて楽しいので、来年の全日本インカレを目指す皆さんは、どんどん頑張って下さい。

でも、初めてチャーター艇方式を体験したのですが、非常に大変ですね。準備する側も受取る側も、レースに対して真剣であればある程、仕事は無限大に増えていきます。大人達が『皆に平等な条件』と言っても、風もベタベタ、カットレースもなく、しかもチャーター艇。運営の皆さんが、どんなに毎日朝早くから晩遅くまで頑張ってくれても、そりゃ〜選手から不満が出るわなぁって感じです。選手も可哀相だし、一生懸命やっても文句言われる運営の人たちも可哀相。チャーター艇方式を続けるなら、せめてカットレースを設けて欲しいですね。学生のレースは何かと全レースをカウントしますが、カットレースがあった方が、やる方も見る方も、いろいろ展開があって面白いと思うんですけどね〜。まあ、学連に何の影響力もない、学連強化担当理事の意見なので、無視してもらって結構ですけど。

取り敢えず、今年のインカレは終りました。チームそれぞれ、選手それぞれにドラマがあったと思います。インカレが面白いのは、参加する皆が真剣であり、その真剣の度合いが非常に高いからだと思います。学生の皆さん、この面白さがいつまでも変わらないよう、来年も宜しくお願い致します。

以上